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七夕と若者と短歌 〜167回〜

今日は七夕ですね。織姫と彦星が年に一度、天の川を越えて再会する日。織姫はこと座の「ベガ」、彦星はわし座の「アルタイル」。どちらも1等星で、はくちょう座のデネブと共に「夏の大三角形」と呼ばれます。

 

まるで遠距離恋愛の象徴のような伝説ですよね。ロマンチックな恋物語として、この日は若き恋人たちの特別な日でもあります。七夕にデートした淡い思い出を持つ方も多いのではないでしょうか。

 

おとつい僕は終日、瀬戸内海にある大崎上島にいました。今勤めている会社がこの島の活性化とウェルビーイング研究のため様々な試みをしていて、多才な若者達をゲストに招き、共に活動をしているのです。

 

夏休みを利用して島で学んでいるミネルバ大の学生とは「生き方」について、東京大学を休学中の若き起業家とは「美」について、それぞれ対話しました。未来への希望に溢れる青年は誠に美しき存在です。(参照ページ)

 

日本を代表する歌人の永田和宏さんをご存知でしょうか? 細胞生物学の研究者としても大きな功績を残されてきた方ですが、同じく歌人の奥さま、河野裕子さんとのオシドリ夫婦として特に有名でした。

 

2010年8月に河野さんは乳がんで亡くなられ(享年64歳)、ひとり残された永田さんとの共著『たとへば君 四十年の恋歌』(文藝春秋)は、七夕の今日、読むのにふさわしい愛に溢れた書物だと思います。

 

本のタイトルは河野さんの下記の歌から取られています。

ーーたとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬかーー

 

この本を読むことは、河野さんが永田さんに出会った20代の頃から、亡くなる64歳までのお二人が共有した40年を追体験することに等しく、多くの読者は涙を禁じ得ないと予想します。

 

大崎上島で会った美しい若者たちのように、20代の2人の眩く輝く歌が初期には並んでいる。

 

ーー息あらく寄り来しときの瞳の中の火矢のごときを見てしまひたりーー 河野裕子

ーー重心を失えるものうつくしく崩おれてきぬその海の髪ーー 永田和宏

ーーブラウスの中まで明るき初夏の日にけぶれるごときわが乳房ありーー 河野裕子

ーー背を抱けば四肢かろうじて耐えているなだれおつるを紅葉と呼べりーー 永田和宏

 

島から高速バスで広島駅に帰ってくると、ちょうど西からの夕焼けが僕の顔を照らします。歩いて家に着く頃には夕闇が迫り、ポツポツと星が輝き始めていました。去年還暦を迎えた僕には40年などあっという間のこと。

 

次が、河野裕子 辞世の句です。

ーー手をのべて あなたとあなたに触れたきに 息が足りない この世の息がーー

これに対する永田和宏 挽歌。

ーー亡き妻などとどうして言へようてのひらが覚えてゐるよきみのてのひらーー

 

永田和宏は、この本のあとがきで次のように書いている。

「最近、私は次のような一首を作った。ーーわたくしは死んではいけないわたくしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬーー死者は、生者の記憶のなかにしか生きられない。だからもっとも河野裕子を知っているものとして、長く生きていたいと思う。それが彼女を生かしておく唯一の方法なのだと思う。」

 

永田さんは今年七十七歳になられたと聞きます。七夕の今日は、とても良い天気です。「夏の大三角形」も光り輝いて、よく目立つことでしょう。皆さん、夜空に並んで瞬く「ベガ」と「アルタイル」を見つけてみてくださいね。