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仲代達矢と黒澤映画と沈黙 〜207回〜

『用心棒』日本映画専門チャンネルWebサイトより
『用心棒』日本映画専門チャンネルWebサイトより

仲代達矢さんが11月8日に亡くなられました。享年92歳。僕は若い頃から、黒澤映画が大好きで、映像が残っているものはほとんど観たのではないかと思います。(ちと大袈裟w)

 

僕のなかで、黒澤映画のベストは『天国と地獄』ですが、仲代達矢出演作のベストは『用心棒』でしょう。仲代の演じるピストル姿の「新田の卯之助」は本当にカッコよかったww

 

三船敏郎が演じる用心棒が「動」であるなら、仲代の卯之助は極端に研ぎ澄まされた「静」と言えます。でもその静は、決して空虚ではない。むしろ“張りつめた沈黙”に満ちている。

 

彼は微笑しているようで、次の瞬間には殺意の影が差す。その影は観客の不安を増幅させる。仲代が演じる悪役には、「悪」という言葉では届かない、もっと深い“間”があったと感じます。

 

黒澤明は人間の“本性”を撮る監督でしたが、仲代はその本性の奥に潜む「影」を演じることに長けていました。彼の演技は濃密でありながら、どこか宙吊りで、輪郭が完全にはつかめない。

 

俳優としての仲代達矢は、完全につかむことのできない“深淵の手触り”を、観客にそっと触れさせてくれる存在でした。その余白の広さこそ、彼の凄みだったような気がします。

 

『用心棒』の卯之助が“謎と影”の象徴なら、『天国と地獄』の戸倉刑事は“構造と光”の側に立つ。戸倉刑事は、まさに卯之助の反転――狂気からの離脱を体現する正義でした。

 

この二つの役は奇妙な共通点を持っています。声より沈黙のほうが雄弁だということ。“削ぎ落とすほど深くなる”それこそが仲代達矢という俳優の真骨頂だったと思うのです。

 

彼は亡くなってしまったけれど、残した役柄たちは今も呼吸しています。仲代達矢は、俳優というより「沈黙の化身が、たまたま映画に出演していた」だけなのかもしれません。

 

仲代達矢さんのご逝去を悼み、心よりご冥福をお祈り申し上げます。