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広告代理店

1960年代アメリカの人気TVドラマ『奥さまは魔女』の旦那さんであるダーリンは、広告代理店「マクマーン&テイト社」の社員でした。私の中で広告代理店社員のイメージは、まさにあのダーリンであって、カッコイイものではありません。まさか、自分がダーリンみたいな仕事に就くとはねー。

 

この仕事をしていると、クライアントについて公に語れなくなるというジレンマに陥ります。例えば自動車メーカーのAのことも、ビールメーカーのBのことも、流通大手のCのことも、良くも悪くも言えません。お得意先だから悪く言わないのは当然なのですが、良く言うのもステマみたいで何かイヤらしい。

 

SNSで、うっかりA社以外の車に乗ってたり、B社以外のビールを飲んでたり、C社以外の店舗で買い物してる写真が流出したらメチャ気まずい――この業界の多くの社員達が、いつもそこに気を使って生きています。SNSを封印している人さえいて、ソーシャルな生活を制限しているんです。お客様は神様だから…?

 

なんか違うんじゃないかなぁー。所詮は同じ生活者。安いものや旨いものがあれば買えばいいし食べればいい。クライアントに見つかるとまずいからこの店は厳禁とか、いったい何処に気を使ってるの? 前時代的感覚です。エコシステムの発想じゃない。私のクライアントにそんなセコイ人はいませんよ。いや、おべんちゃらじゃなく。

 

かつて「気まぐれコンセプト」という4コマ漫画がありました。軽薄短小な広告業界を示す象徴的な作品です。得意先とエージェンシーとの関係性を見事に突いた名作だと私は思います。でもそれは平成までのビジネスモデルなんじゃありませんか? ポストコロナのビジネスは、受発注の力学から構造的に変化すると私は予想しています。

 

このコロナ禍のなかで、ダーリンのために妻のサマンサは、社会に魔法を掛け始めてるように感じます。発注先と受注先のソーシャルディスタンシング。バブルじゃないんだから接待や癒着なんて恰好悪すぎでしょ。不正はいけないとか正論じゃなくて、ただダサい。もう星空の下のディスタンスです(笑)。世の中はホントに変わり始めています。この苦難を乗り超えた先に、きっと素敵な世界が広がっていると私は信じます。