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カニと哲学者と女性

太田川の下流域は日本でも有数のデルタ地帯で、6つの川に分流して広島平野を形成しています。広島市民は、まさに太田川と共に生きているとも言えます。

 

私の幼い頃は、市内のあちこちの川の護岸に、小さな生き物がたくさん見られました。カニやフナムシ、フジツボも。特にフナムシは近づくと、うじゃうじゃ逃げ出して気持ち悪いくらいでした。

 

フナムシもカニもあんなにいたのに、一体どこに行ってしまったのか? 今はまったく見なくなりました。私は専門家じゃないので分かりませんが、フジツボはプランクトンの多いところに付着するので、彼らの食べ物がなくなったのでしょうか。

 

哲学者サルトルのカニ嫌いは有名です。彼は甲殻類を、この世のものならぬ「別の宇宙から盗んできたのだ」とまで言っています。サルトルの戯曲『アルトナの幽閉者』にも「蟹たち」と称する奇妙な存在が現れますよね。

 

サルトルは1935年に存在と想像についての実験のため、メスカリン注射を受けたそうです。その際に全身をカニやエビが這いまわる幻覚に襲われ、以降も幻覚を伴う鬱症状に半年以上悩まされたと言われています。それで最も醜い存在の象徴としてカニやエビを持ち出したりするわけです。

 

私の妻はエビが苦手です。苦手というより、エビアレルギーなので食べると大変なことになるので食べません。ブラックタイガーをスーパーで見掛けると逃げていきます。一方、カニの方は好物です。特に伊勢エビやロブスターは大好物…。あれ? 伊勢エビやロブスターってエビじゃなかったっけ。あれはカニですか?

 

高級なエビは食べることができるのかなー? アレルギー出てないし。まあ、彼女は実存主義者だからサルトルと同類なのでしょう。それがエビであればエビであり、それがカニであればカニです。意味が分からないって? 現実存在と本質存在の違いですよ。ま、それ以前に、男には女性のことは永遠に分かりませんから。笑