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セーラー服とバス停

広島県立海田高等学校を卒業しました。かつての旧制高等女学校のため、家政科も併設されていて女生徒のやたら多い学校でした。女学校からの流れでしょうか、制服は伝統的なセーラー服です。優秀な女子とセーラー服に釣られてやって来るマニアな男子で構成されていました。ウソです。 

  

周辺からは恋愛学校と呼ばれるほど、制服姿のカップルが多く見られる校風があり、今でもその歴史は守られているのではないでしょうか。そのため、軟派な人間が集まりやすく、大成したOBも少ない。こう言うとOBの方々には失礼ですが、きっと否定されることもないと思います。いえいえ、おおらかな人が多いという意味です。 

  

当時は、セミ短ボンタン(なんじゃそれ?)のツッパリ系変形学生服の全盛期でした。私はと言えば、なるべく目立たぬよう標準服をきちんと着て、行儀よくしていました。恋愛学校の生徒は、校外では本物のツッパリ系高校の標的にされることが多くて、私は「目立たぬが勝ち」の硬派?哲学を貫いていたのです。ちなみに私の卒業した年に、変形学ランの増加抑制のため、標準学生服の日本全国統一基準認証制度が発足しています。 

   

3年間、毎日バスで通学していました。卒業も近づいたある夕暮れ時のことです。海田高校前のバス停からセーラー服の女子数名が乗ってきました。ひとつ前の停留所でバスに乗っていた私は、すでに最後列に座って1人ウトウトしていました。私の横に1年生の女子が2人ワイワイとうるさく座って来たので、ちとイヤな気持ちがしたのです(学年は学章の色で分かります)。この2人が横でゴソゴソしている気配を感じたのですが、前日夜更かしし過ぎて、その時はただただ眠かった…。 

  

ターミナルのバス停に到着し、多くの人の下りる気配で目が覚めました。隣の席の女子2人も立上ります。自分の降りるバス停がまだ遠い私は、バスから降りていく人々の姿を一番後ろの席の窓から寝ぼけ眼で追っていました。女の子1人は私の視線をかわす様にサッと目を伏せたのですが、もう1人の女の子は何故だかニヤニヤして私を見ているような気がします。 

   

その時、後に置いていた私の学生鞄にピンク色の風船がくくり付けられ揺れているのが見えたのです。ゴソゴソしてたのはこれか! 女の子が窓の外で照れくさそうに笑っています。私も思わずつられて笑ってしまいました。私に向かってぺこりと頭を下げると、セーラー服はバス停を去って行きました。あの後、バスを降り、風船をくっつけたままの鞄を持って家まで歩いた時、何だかとても幸せな気分だったなぁ。 

   

それから、この娘と何か楽しいことでも始まったかって? いやいや残念ながら、あれからすぐに卒業しましたから。今思えば、彼女はちょっとかわいらしかったような気がします。いや、めちゃくちゃキレイだったんじゃないかなぁ。違う違う、絶世の美女だったにちがいない…(さだまさしみたいじゃ)。 

  

寝ぼけてたから、蛾が蝶に見えたのかもしれません。想い出というものは、いつも美しいものですから。でも、もしかしたらバスに揺られて見た夢だったのかもしれませんねー。あまりにも色っぽいことのない高校生活だったので。笑