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飛行機と道しるべ

日航ジャンボ機の墜落事故から、昨夜でちょうど35年。あれは本当に衝撃的な出来事でした。乗員乗客524人のうち死亡者は520人。今でも被害者数は世界でも過去最悪の飛行機墜落事故です。

 

812日ですから夏休みやお盆の帰省で、東京から大阪へ移動する多くの人々が、家族や友達との再会を心待ちにして、明るく楽しい気持ちで搭乗されたことと思います。

 

私はと言えば、当時は1人暮らしの大学生。20時から日テレの『ザ・トップテン』を14型の赤い小型テレビで見ていました。放送中に小林完吾アナウンサーが臨時ニュースを何度か伝えたと思います。番組の中で徐々に明らかになっていく事故の状況。NHKはすでに報道特番を組んでいました。

 

あの大惨事のなか4人の方が助かったのは、まさに奇跡です。事故当時12歳だった川上慶子さんはその後、看護師の職に就き、1995年の阪神大震災の際に多くの負傷者の手当てをされたと聞きました。自衛隊のヘリコプターで救助される当時の川上さんの姿は、あの惨劇のなかで何か希望の光のような気がしました。

 

ダグ・ハマーショルドの著書『道しるべ』は、私の愛読書の一つです。愛読書というか、自分を律するための道徳の本と言ってもいい。私は基本的にダメな人なので、何かにつけ弱気になり、安きに流れようとする。そんな危うい時に『道しるべ』をパラパラめくって姿勢を正すのです。

 

国際連合の事務総長だったハマーショルドが、1961年の国連チャーター機墜落事故で亡くなった後に、出版された唯一の著書が『道しるべ』です。乗員乗客16人が全員死亡したこの事故は、ハマーショルド暗殺が目的だったとする説もあります。

 

『道しるべ』は、パスカルの『パンセ』のような自省録といった形式の本です。私は『パンセ』やウィトゲンシュタインの『反哲学的断章』といった散文的な哲学書が好きです。ま、好きというより、長文では集中力が続かないだけなのですけどね。笑

 

「振り返るな。また未来を夢見るな。そんなことをしても、過去を返してはもらえないし、ほかの幸せな夢想をも満たしてはもらえないのだから。おまえの義務、おまえの褒賞――おまえの運命――はいま、ここにあるのだ。(p155)

 

どんな思いで、その「いま」を感じながらハマーショルドは、アフリカの空に消えていったのでしょうか。ノーベル平和賞がハマーショルドに授与されたのは、彼が亡くなった直後のことでした。