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元広島市長 平岡敬さんのこと 〜146回〜

『君たちは平和をどう守るのか』(平岡敬著・南々社)
『君たちは平和をどう守るのか』(平岡敬著・南々社)

昨年の11月末に元広島市長の平岡敬さんが新しい著書『君たちは平和をどう守るのか』(南々社)を95歳で上梓されました。平岡さんとはご縁があり、プライベートでもお付き合いをさせていただいています。

 

昨年の初夏くらいに、袋町のスターバックスで会社をさぼってCM制作会社の方とお茶をしていたら、久々に平岡さんをお見かけしました。NHKで打合せがあり、その足でふらりとコーヒーを飲みにいらっしゃったとのこと。相変わらずカッコいい。

 

私の妻が平岡さんの市長選のウグイス嬢だったことから、私も妻のおまけとしてお付き合いが始まりました。妻と結婚するタイミングで平岡さんにご挨拶したときは、めちゃ恐ろしいオジサンのイメージがありました。笑

 

ワインを囲む会とかで何度かご一緒させて頂いたことがありますが、今回の著書に書かれているような壮絶な体験のお話を聞くことはなかった。まえがきの一文を読むだけで背筋が伸びました。汗

 

ーー今の時流に乗って、勇ましいことを言う人こそ卑屈な心の持ち主です。ーー

 

特に中国新聞社へ入社されてからの原爆被災白書運動に関する著述は、平岡さんの体験と本音が語られていて、頬を叩かれるような気持ちになります。今の時流に乗せられ、世論を気遣い、本音を語れぬ弱い自分に気付かされるのです。

 

平岡さんの主張は一貫しています。日本は米の原爆投下を不問にすべきでなく、米が間違いを認めることが核兵器廃絶の第一歩となる。ーーあの時、苦しみもがいて死んでいった人の思いを差し置いて、「謝罪を求めない」という言葉を口にできるのかーー

 

戦後間もない頃、被爆者から厳しい言葉を浴びせ続けられた新聞記者、平岡さんだからこそ封印された被爆者の真実の声を、心の叫びを知っている。ヒロシマの本当の怒りを、今の若い人たちに知って欲しくて著した本だと言います。

 

その中でもルポタージュ作家、上野英信さんの短文「私の原爆症」の次の文章は、まさに心をえぐるような言葉です。「この23年間、私はアメリカ人を1人残らず殺してしまいたい、という暗い情念にとらわれ続けてきた。

 

誤解を恐れずに言うと、小学校に上がって初めての平和学習で、僕も漠然と「アメリカが悪い」と感じたことを思い出しました。敗戦国日本の平和教育が原爆投下者への憎しみや恨みを、世界平和の名の下に押さえ込んだ歴史を改めて感じます。

 

ウクライナ問題についても、まさに平岡さんの示すとおり、僕自身が今の時流に乗った考え方に偏っていたかもしれぬ疑問を持ちました。ーー犠牲になるのは弱い国民。それを、国は見捨てるということなのです。本当に国民の命が大事なら戦争はしないと思います。ーー

 

この本で特に意義深い箇所は、国際司法裁判所での平岡市長の口頭陳述でしょう。人類全てが読むべき内容だと思います。平岡さんに可愛がっていただいた妻をめとったせいか、いまだ平岡さんの僕を見る眼差しは厳しい?のですが、僕が心から尊敬できる数少ない御仁です。